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札幌地方裁判所 昭和36年(む)1138号 判決 1961年10月02日

被疑者 畑富雄

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する公務執行妨害、傷害被疑事件について、昭和三六年九月一八日札幌地方裁判所裁判官がなした勾留命令に対して同被疑者から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

第一、本申立の趣旨および理由

別紙畑富雄作成名義の「準抗告申立書」と題する書面に記載してあるとおりであつて、結局その趣旨とするところは、昭和三六年九月一八日札幌地方裁判所裁判官がした申立人に対する勾留の裁判は、それに先行する逮捕手続が違法であるから、当然右裁判自体も違法というべきである。よつて、その取消を求めるというに帰する。

第二、当裁判所の判断

一、検察官から取り寄せた捜査記録(勾留関係書類を含む)、司法巡査本居信に対する取調その他当裁判所の事実調べの結果によると、次の事実が認められる。

(1)  申立人は昭和三六年九月一三日、公務執行妨害、傷害被疑事件の現行犯人として逮捕され、同月一五日付で右被疑事実によつて勾留請求されたが、札幌地方裁判所裁判官は現行犯逮捕手続が不適法であることを理由に同月一六日右勾留請求を却下した。

(2)  司法警察員は右勾留請求が却下されることを予知して、右却下された被疑事実と同一の事実につき、右同日改めて通常逮捕状を請求し、札幌地方裁判所裁判官はただちに右令状を発布した。

(3)  勾留請求が却下された後、検察官は検事室に申立人を連行させ、約一〇分間そこで取調を行つた。この取調の間、担当の司法巡査は検察官が被疑者を取調べる際いつもするように、申立人の両手錠をはずし、同人に比較的接近した斜め後に位置していた。

申立人が接見等禁止処分がとられていることで検察官に抗議をなし、多少亢奮状態にかられて椅子から立上つたところ、検察官は口頭で申立人に対し「釈放する」と告知した。その直後前記司法巡査は、手にしていた逮捕状を申立人に示して、その逮捕手続をとり、ひきつづき同人を抑留し、同月一八日検察官は右逮捕状記載の被疑事実につき勾留請求をなした。

(4)  札幌地方裁判所裁判官は、同日適法な手続を経て、右被疑事実につき勾留状を発し、申立人は現在拘禁中である。

二、以上の事実関係により明らかなように、申立人の主張にかかわらず、申立人に対する昭和三六年九月一六日付通常逮捕状の執行に際し、申立人の片手に手錠がはめられていたという事実はたやすく認め難い。ただ、その際逮捕者である司法巡査がすぐ傍らにいて看視を続け、逃亡を防ぐ手段を講じていたのであるから、この段階ではなお申立人の身体は拘束されていたものといわなければならないが、しかし取調終了後、検察官は、手錠をはずされた状態にあつた申立人に対し口頭で釈放する旨告知しているのであるから、申立人は右告知後いつでも任意行動に出る可能性を与えられたものというべきであつて、たとえその場所が検察庁構内であつたとするも、本件のごとき事案においては、申立人の身体の自由は一応回復されたものと認めるのを相当とする。従つて、司法巡査は右釈放後、遅滞なく、釈放した場所で、逮捕令状を申立人に示したうえ、逮捕手続をとつているが、これは釈放という結果が発生した後のことであり、右手続に違法と認むべきところはない。

以上のごとく、申立人に対する逮捕手続に主張のような瑕疵のないことは明らかであつて、本件勾留の裁判に対する不服の申立はその前提を欠き失当であるが、かりに右逮捕手続になんらかの瑕疵があつたとしても右手続に引き続きなされた本件勾留状発布手続そのものについてなんら違法と認むべきところはないのであるから、いずれにしろ右勾留の裁判を違法としてその取消を求める本件申立はとうてい排斥を免れない。

よつて、本件申立は刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項後段を適用してこれを棄却することにする。

以上の理由により主文のとおり決定する。

(裁判官 神崎敬直 寺沢栄 今枝孟)

(準抗告申立書略)

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